〈第2回〉何が、どこまで医療広告? ガイドライン違反の傾向は?《医療広告ガイドライン10のポイント》

医療機関がインターネットを使った情報発信を進める上で、忘れてはならないのが医療広告ガイドライン。厚生労働省は医療機関ネットパトロールを強化しており、ガイドラインに反する不適切な医療情報を掲載してしまうと行政指導が入ることも。何より患者に不利益を与えることになりかねません。そこで本コラムでは、医療広告ガイドラインでおさえておきたいポイントを、全10回にわたって解説していきます。

第2回は何が、どこまで医療広告? ガイドライン違反の傾向は?をお届けします。 


医療広告の判断軸となる「誘引性」「特定性」という考え方 

前回のコラムでお伝えしたとおり、医療広告ガイドラインは2018年6月に大幅に改訂されました。それまでは新聞や雑誌、パンフレット、テレビCM、看板など、受け手の意思に関係なく目にふれる広告のみが規制対象でしたが、ユーザーが自ら調べてたどり着く医療機関のウェブサイト等も規制対象に加わったのです。そしてこれは、医療広告の定義に即した変更といえます。 

ウェブサイト等に医療機関名や連絡先を明記した上で(特定性)、治療や検査の特徴、ドクターの専門分野、設備の充実度などの情報を掲載すれば、それを見た患者に「このクリニックを受診しよう」と思わせる可能性がある(誘引性)。そのため医療広告に該当すると判断されたわけですね。

今後、医療広告ガイドラインについて解説していく中で、特に「誘引性」は何度も出てくるキーワードです。また、ご自分の病院・クリニックのホームページに、ガイドライン違反の記載がないかどうかの判断軸にもなるため、ぜひ覚えておいてください。


さまざまなウェブサイト、ウェブ広告が規制の対象に

次に、広告規制の対象となる「ウェブサイト等」には何が含まれるのか、具体例をご紹介します。なお、あくまで広告の規制対象となるかどうかを説明するものであり、決して、以下のウェブサイト等に情報を掲載すること自体が問題というわけではありませんのでご注意ください。 


1.医療機関のホームページ

広告の規制対象となる以前からホームページを運営している医療機関は多いと思います。しかし、「知らないうちにガイドラインを違反していた」という声はかなり多いので、今一度、掲載内容をチェックすることをお勧めします。


2.ランキングサイト

インターネットにおける「○○手術実施件数ランキング」「○○科のおすすめクリニック10選」といったランキングは、必ずしもすべてが規制対象となるわけではありません。

■規制対象となるもの

医療機関が広告料等を支払うことで掲載されたランキング。誘引性が認められます。

■規制対象にはならないもの

メディア運営者などの第3者が、DPCデータや医療機能情報提供制度を基に作成したランキング。あくまで単純かつ客観的なデータであり、誘引性は認められません。 

3.クチコミサイト

第3者が運営するウェブサイトにクチコミ(患者の体験談)の掲載を依頼し、その対価として広告料等を支払った場合は、誘引性が認められるため広告規制の対象となります。

ただし、一般のユーザーが自主的に投稿したクチコミや、個人が運営するウェブサイト、およびSNSの個人のページに書き込まれたクチコミなど、医療機関が関与しないものは規制対象外です。


4.医療情報ポータルサイト

医療機関の紹介、病気や治療の解説、学会・論文情報提供、そのほか医療・ヘルスケアに関するさまざまな情報を発信しているウェブサイトを「医療情報ポータルサイト」と呼びます。医療機関が広告料等を負担して掲載した情報は、医療広告として扱われ規制対象となります。


5.医療機関のSNS

公式ブログ、およびFacebookやTwitter、LINEなどの公式アカウントで発信される情報は、医療法上の広告に該当するため記載内容に注意が必要です。

また、院長やスタッフの個人ブログであっても、所属する医療機関名が特定される形で患者の受診等を誘引する情報を発信している場合や、報酬を支払って個人のブログに自院の情報を掲載してもらった場合も、規制対象となります。


6.アフィリエイトやバナー広告・リスティング広告

医療機関のホームページなどに患者を誘導する目的で掲載されるこれらの広告は、もちろん規制対象となります。


医療機関ネットパトロール始動! 違反を疑う通報が年間8000件近くに

2017年8月、厚生労働省は医療広告ガイドラインに違反するウェブサイトを是正する目的で、医療機関ネットパトロールを始動しました。「絶対安全」「がん免疫療法」といったトラブルが多発しているキーワードの追跡調査を事業者に委託するほか、一般の方からの通報も受けつけています(医療機関ネットパトロール 通報フォーム)。

厚生労働省は、フォロワー数84万人を超える公式Twitter(2020年11月現在)を通じて、医療広告ガイドライン違反の通報を国民に呼びかけるなどした結果、通報件数が飛躍的に増加。2019年には、医療広告に関する違反疑いの通報が8000件近くに上りました。そのうち審査対象となった1044件は、次のようなプロセスで処理されています。 


圧倒的に多い、歯科関連のガイドライン違反

では、実際にどのような不適切広告が見られるのでしょう。令和元年度のネットパトロールで確認された違反の種類を、件数の多い順に紹介します(※1)。

※各違反の詳細については、今後のコラムで一つずつ解説していく予定です。


1.広告が可能とされていない事項の広告

・審美歯科等の認められない診療科目、「○○専門外来」といった表記

・厚生労働大臣に届出がなされた団体の認定する資格名でない専門医・指導医・認定医

・死亡率・術後生存率・治癒率 など


2.誇大広告

・「最先端の医療を提供」

・「知事の許可を取得した病院です」 など


3.治療前または治療後の写真のみの掲載


4.比較優良広告

・「国内No.1」「シェアNo.1」「クチコミ5年連続満足度1位」

・「限られたドクターのみが行える治療」「どこでも受けられる治療ではありません」

・「当院の治療技術が評価され、○○アワードを5度受賞」

・「医師も通う○○クリニック」「女優の○○さんも愛用」 など


5.患者等の主観または伝聞に基づく、治療に関する体験談(クチコミ)

・「治療効果の高さに、多くの患者さまから喜びの声が届いています」 など


6.費用を強調する記載やプレゼントの記載

・「早割」「20周年特別価格」「期間限定キャンペーン」「お得プラン」

・「先着10名様に○○をプレゼント」 など


7.虚偽広告

・「絶対安全な手術です!」「どんなに難しい症例でも必ず成功」

・「アレルギーや副作用はありません」「再発がない○○の治療法」

・「10歳若返る」「1日ですべての治療が終了します」 など


これらの違反広告が最も多かったのが歯科で、実に全体の73%以上を占めています。特に多いのが「インプラント」「審美」に関する違反でした。続いて多かったのが美容医療、がん、自由診療。歯科も含めて、これらは国民生活センターへのトラブル相談が後を絶たない診療分野です。患者に対して正確な情報提供が行われていないことが、治療前後のトラブルを招く。そんな因果関係を表しているように感じられます。

今回は、医療広告の定義と、広告規制の対象となるウェブサイトの具体例、ネットパトロールの実態についてご説明しました。医療広告の柱となる考え方はご理解いただけたでしょうか? また、医療広告の適正化に取り組む国の本気度が、少しでも伝わると幸いです。

次回は、広告規制の対象外となる「限定解除」についてご紹介した後、いよいよ医療広告ガイドラインの具体的なルールを深掘りしていきます!


※1 厚生労働省 第14回医療情報の提供内容等のあり方に関する検討会資料1-2「ネットパトロール事業について(令和元年度)」の「ネットパトロールにおける分類別の傾向」(令和2年3月31日時点)。 

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