医療機関がインターネットを使った情報発信を進める上で、忘れてはならないのが医療広告ガイドライン。厚生労働省は医療機関ネットパトロールを強化しており、ガイドラインに反する不適切な医療広告には行政指導が入ることも。何より患者に不利益を与えることになりかねません。そこで本コラムでは、医療広告ガイドラインでおさえておきたいポイントを、全10回にわたって解説していきます。
第3回は比較優良広告・誇大広告の要点を解説します。
広告できることが増える?!「限定解除」とは
いよいよ医療広告ガイドラインの具体的な禁止事項の一つ、「比較優良広告」「誇大広告」について解説していきますが、その前に……、皆さんは「限定解除」という言葉をご存じですか? 一定の条件をクリアした広告媒体においては、広告可能事項の限定が解除されるという特別措置のことです。可能事項? 限定? このままではわかりづらいですよね。
本コラム第1回でもふれましたが、医療広告ガイドラインでは、広告可能なことを「○○に関する事項」のように一定の性質を持った項目群としてまとめて規定しています。以下はその一例です。
ガイドライン条文には、具体的にどんな内容なら広告して良いのかが記されています。同時に目につくのが、「○○ついては、広告は行わないものとすること」というただし書き。つまり、広告可能事項の中にも制限が設けられているんです。
医療機器を導入していることは広告可能でも、その医療機器の販売名を掲載するのはNG。例えば歯科で使われる「セレック」は、医療広告においては「歯科用CAD/CAMシステム」のように表現を変える必要があります。もう一つ多いのが、治療効果に関する記載です。どんな治療を行っているかを広告することは認められていますが、成功率や治癒率などの治療効果に言及することはできません。
こうした制限が設けられているのは、医療広告で禁止される誘引性を排除するためです(※誘引性については本コラム第2回参照)。「Aという製品を使っているから間違いないだろう」「この病院は手術の成功率が高いから受診したい」と思わせる可能性が高いため広告不可、ということです。
ところが、限定解除要件を満たすとこうした縛りがなくなり、医療機器の販売名も、手術の成功率も、広告に記載できるようになります。では、どんな要件を満たせば良いのでしょう。
②の連絡先とは、電話番号やメールアドレスのことです。ただし、連絡先が小さく表記されていてわかりづらい、予約専用の電話番号、自動音声対応のみの回線、返答のないメールアドレスは、要件を満たしていません。もう一つ重要なのが、限定解除によって広告禁止事項まで広告できるようになるわけではない、ということです。
他にも、治療効果など患者への影響が大きい事項については、根拠も併せて明記することなど、細かなルールが設けられています。網羅しながらコンテンツを制作するのは、なかなかハードルが高いのではないでしょうか。また、要件を満たしているかどうかは自己判断が難しいともいえます。自院のホームページが限定解除の対象となるかどうかを知りたい場合は、最寄りの保健所に問い合わせると良いでしょう。
「大げさ」だけが誇大広告ではない
レストランでステーキを頼んだら、メニューの写真よりもはるかに小ぶりな肉が運ばれてきてガッカリした。これは私が実際に体験したことですが、期待を裏切られたときのガッカリ感には相当なものがあります。しかし、「ガッカリした」では済まないことがあるのが医療広告。何度もお伝えしていますが、医療広告は時として患者の健康や命に影響を及ぼします。
「必ずしも虚偽ではないが」とは、250gのステーキが300gはあるように見えるアングルで撮影され、それによって客が過度の期待を持ってしまった、ということですね。店側があえて大げさに表現したつもりがなくても、そう捉えられる可能性があれば、誇大広告と見なされてしまうのです。
医学的・科学的根拠に乏しい情報を記載することは、誇大広告にあたるんですね。大げさな表現だけでなく、正確さや安全性、有効性などを信じ込ませるような表現も誇大表現になるということがわかります。
もう一つ誇大広告になり得るのが、医療機関の名称に関わるセンター表記。一般の方にとって、「○○センター」と名のつく医療機関は、どこか確立された、高度な医療を受けられそうなイメージがあります。そのため、広告上で使用できるセンター表記を限定しており、「ABクリニック インプラントセンター」といった表記は誇大広告とみなされます。
一方、「救命救急センター」「休日夜間急患センター」「総合周産期母子医療センター」などの各都道府県が認めている場合は表記できます。また、院内の一部門として「○○センター」を開設している場合、院内掲示していれば、ウェブサイト上に限って同一の表記をすることが可能です。
客観的事実であっても認められない最上級表現
質の高い医療の提供を追求されている病院・クリニックの皆さんにおいては、「他のどの医療機関よりも優れている」と自負することがあるかと思います。私が医療広告のご相談を受ける際も、手術件数や新規患者数、患者満足度について、「県内一」「全国トップ」といった表記を希望されるケースは少なくありません。
しかし残念なことに、他の施設と比較して優れているとアピールすることは、医療広告ガイドライン違反となってしまいます。一般的な商品広告では、客観的な事実に基づく根拠を明記すれば記載OKとなりますが、医療広告ではそれすらも認められていないのです。
「その他優秀性について著しく誤認を与える表現」とは一体何を指すのか。条文には詳しく記載がなく、具体例として挙げられているのは「日本有数の実績」「県内一の医師数」などの最上級表現のみ。どう解釈するのかは、読み手にゆだねられているといえます。これが医療広告ガイドラインの難しいところですが、「誘引性」があるかどうかを基準に判断することをお勧めします。
もちろん「当院で最も早く内視鏡を取り入れた科」のように、他の医療機関と比較していなければ問題はないでしょう。同じく、「日本一をめざす」「最高の医療を提供したい」「最小にとどめるよう努める」のように、目標やモットーとして記載される分にはガイドライン違反となりません。
なお、「最大限」は「限られた範囲の中で最大」という意味があり、一見すると最上級表現のようですが、「最大限活用する」「最大限痛みを減らす」のように努力目標として使用されることが多いため、「著しく誤認を与える」とは言いにくいのではないかと思います。つまり、言葉狩りをするのではなく、文脈まで捉えて、受け手に誤解を与えないようにすることがポイントになります。
今回は、限定解除要件と、比較優良広告・誇大広告について解説しました。受け手の行動を促すことが広告の目的でありながら、「この医療機関はすごそうだから行きたい」と思わせるような表現ができないのが、なんとも歯がゆいですね。しかし、医療広告は人の生命・健康に影響を与える性質を持つため、しっかりとルールを遵守していただきたいと思います。
なお、比較優良広告・誇大広告は「禁止される広告」にあたるため、限定解除要件を満たそうが、何をしようが、掲載できることは絶対にありません。では、次回も引き続き、医療広告ガイドラインのルールを具体的に紹介していきます!
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