〈第2回〉北欧の労働スタイルを手本にした、メリハリの労働環境《スタッフ定着率の高さにはワケがある! 福利厚生レポート》

ウィズコロナの現在、クリニックを経営されているドクターには、感染症のリスクに向き合いながらも、いつも以上に頑張ってくれているスタッフの労をねぎらいたい、と考えている人が少なくないと聞きます。

こんなときだからこそ、頼もしいスタッフに長く働いてもらいたい、スタッフのためになることを何かしてあげたい――と考えつつも、これまで行っていた会食などが行えず、悩んでいるドクターもいることでしょう。しかし、そうした想いを「福利厚生」として取り入れ、コロナ禍でも独自の工夫をしているクリニックが数多くあります。

そこで本稿では、クリニックが取り入れている手厚い福利厚生や、ユニークな福利厚生をシリーズで紹介します。

第2回はメリハリのある労働環境づくりに力を入れている、ヒルサイド赤坂デンタルクリニックの宮原宇将院長に話を聞きました。


働きやすい環境が、スタッフ定着率につながる 

 第1回で紹介したように、法定外福利厚生は8つに分類されています。

その中の一つ、「リフレッシュのための各種取り組み」に力を注いでいるのが、2018年に開業した「ヒルサイド赤坂デンタルクリニック」。東京・赤坂にあり、開業以来スタッフ数は5人以内と少数精鋭の体制で運営しています。

これまでに退職したスタッフは結婚に伴う転居や出産などのライフイベントによるもので、職場環境への不満から退職した人は一人もいないそうです。

そんなヒルサイド赤坂デンタルクリニックの宮原宇将院長が、スタッフの定着率を高めるために実践している福利厚生とは、どんなものなのでしょうか。


北欧風ワークスタイルの実践で、休憩時間も充実させる 

勤務医時代にスウェーデンへの留学を経験した宮原院長。そこから、北欧の暮らしや働き方に大きな影響を受けたと言います。

「スウェーデンには、お茶やコーヒーを片手に同僚と世間話をしたり休憩したりするフィーカという慣習があります。スウェーデンの勤務時間は8~16時ですが、そのうち、90分のランチ休憩のほか、午前と午後に30分ずつフィーカがあるんです。もちろん、残業も一切しません。そのために、皆ものすごく集中して働いています」

働く時は集中して働き、休む時はきちんと休む。そんなメリハリのある働き方に感銘を受け、開業してからは北欧風のワークスタイルを実践するために、こまやかな工夫をしています。

例えば休憩室には、スタッフがいつでもコーヒーや紅茶を飲めるようにとコーヒーサーバーやポットに加え、技工用とは別に飲料用の天然水を用意。「ランチには、おいしいごはんを食べてリフレッシュしてほしい」という想いから、こだわりのキッチン家電が並びます。

また、基本的に残業はほとんどなく、18時30分に診療が終わったら、18時45分には退勤するようにとスタッフに言っているとのこと。そのためにも、医療用洗浄機を導入するなど、できるところは機械化し、スタッフの業務負担の軽減につなげています。


有休はスタッフの権利。気兼ねなく取得できる雰囲気づくりを

開業時のスタッフ採用面接で「前の職場をなぜ辞めたのか」と聞いた際、「有給休暇制度があっても、実際は休みが取りづらかったから」との理由が多く挙がったそうです。そうした声を受けて、なるべく休みを取りやすい環境づくりに注力しているのだとか。

「有休の制度があっても、実際は取りづらいようでは意味がありません。有休はスタッフの権利ですから、積極的に取るよう声かけするなど、気兼ねせずに取得できるような雰囲気づくりを心がけています」

開業当初から勤める歯科衛生士は、「院長自身、よく釣りや旅行を楽しんでいて、メリハリのある働き方を体現されているので、こちらも有休を取りやすいですし、だからこそ仕事にも集中して取り組めます」と話します。スタッフが休みやすく、メリハリをつけて働ける環境をつくるには、まずは上司である院長が率先して実践することもポイントかもしれません。


スタッフの“やりたい”をかなえるための支援を惜しまない 

ヒルサイド赤坂デンタルクリニックでは、スタッフの向上心を後押しするための取り組みも、福利厚生として導入しています。

コロナ禍前は、講習会や研修への参加希望があれば参加費や出張費を全額負担し、最近では仕事に関する資料の購入希望があれば書籍代を負担するなど、スタッフの“やる気”を最大限サポート。日頃から積極的に声かけを行い、スタッフが本当にやりたいこと・なりたい姿について聞き出し、その実現のためのサポートをしているそうです。

さらに、「業務でこういう機器(ホワイトニングの機器など)が欲しい」といった希望があれば採用し、スケーラーやミラーなど10万円までの器材であれば、自己判断で購入してもいいという許可を出しているとか。


コロナ禍だけど、だからこそ。工夫次第で、スタッフをねぎらうことは可能  

会食などができない昨今、小規模でアットホームなクリニックならではの方法で、スタッフをねぎらい、日頃の感謝の気持ちを表しているという宮原院長。新型コロナウイルス感染症の影響で患者数が減少し、スタッフが落ち込んでいた時には、同じく観光客が減り苦戦していた北海道の漁港の知人から海産物を取り寄せて、少人数で食事会を開いたそうです。

また、退職したスタッフともいい関係が続いており、釣り好きの院長が自身で釣った魚を振る舞うような時には、家族ぐるみでクリニックを訪れることもあるのだとか。在職中から良好な関係性が築かれていた証といえそうですね。

こうした「メリハリのある働きやすい職場づくり」は、スタッフにはプライベートや家族も大切にしてほしいという宮原院長の想いから生まれたもの。「仕事ももちろん大事ですが、それ以外の時間を充実させて、人生を楽しむことはもっと大切」と考えるご自身の人生観が反映されているといえるでしょう。

(ドクターズ・ファイル編集部)





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