〈現状分析編〉税理士に聞く!コロナ禍でも伸びるクリニック・業績不振に悩むクリニックの違いとは?

新型コロナウイルス感染症の流行に伴い、クリニックの多くが経営に大打撃を受けた2020年。年が明けた直後、第3波の拡大を受け、1都3県を皮切りに各地域を対象として再度、緊急事態宣言が発令。2021年3月21日に全国的に解除されましたが、今度は新たに第4波の到来が懸念されており、不安を抱いているクリニックも少なくないのではないでしょうか。

そこで本稿では、第1波から第3波が経営にどのような影響を与えたのか、またどのような経営をすればコロナ禍を乗り越えていけるのか、医療法人の財務・税務を専門とする辻・本郷 税理士法人ヘルスケア事業部(以下、辻・本郷 税理士法人)の税理士、須田博行氏、土居秀行氏、大谷朋子氏、豊島正寛氏の4名にお話を伺いました。

税や会計の専門家である税理士の観点から、〈現状分析編〉、〈対策編〉の2回に分けてお伝えしていきます

まずは現状分析! 第1波襲来で、クリニックの9割以上が「患者受診数が減った」 

まずは、2020年の4月下旬をピークとする第1波、8月上旬から中旬をピークとする第2波、11月以降の第3波による、現在までのクリニックへの影響を振り返ってみましょう。

ドクターズ・ファイル編集部では、2020年5月、開業医を対象に新型コロナウイルス感染拡大の影響に関するアンケート調査を実施しました。その結果、「影響を大きく受けている」「影響を受けている」と答えた方は95.8%。さらに、その内の91.2%が「患者受診数が減った」と回答。ほとんどのクリニックが大なり小なりの打撃を受けたことがわかりました。 

特に大きなダメージを受けたのは、1回目の緊急事態宣言が発令された4月。学校が休校になり、デパートや飲食店も休業になるなど、医療・介護、小売業、物流など、必要最低限のライフラインを支える事業者を除き、経済活動がストップした時期でした。

そして、ほとんどの医療機関でも、大きく売り上げが減少。その理由を、辻・本郷 税理士法人の先生方は次のように分析します。

「第1波の時は、新型コロナウイルスの正体がどんなものかがわからず、対処法も確立されていませんでした。そのため、患者は受診を控え、医療機関も休診したり診療時間を短縮したりするなど、誰もが何よりも感染を恐れ、行動を抑制していました。

中でも、健康診断専門のクリニックでは、そもそも営業自体を止めてしまうところもありました。つまり、感染リスクの軽減と安全確保を最優先し、売り上げを下げざるを得なかったといえます」


患者心理の変化で、医療業界のマーケットが縮小傾向にある?  

そして、緊急事態宣言が明けた5月以降も、患者の戻り具合は鈍かったようです。この背景について、辻・本郷 税理士法人の先生方は、医療業界のマーケットが縮小傾向にあることを指摘します。

「縮小の要因の一つには、患者の心理的不安による行動変容があります。コロナ禍前は、少し具合が悪かったらとりあえず医師に診てもらおうと、気軽に医療機関へ足を運ぶ風景が当たり前にありました。

しかしコロナ禍では、院内感染を恐れ、『この程度だったら家でおとなしくしていよう』『意外に病院に行かなくても平気かもしれない』などと病気に対する患者の意識が大きく変わったのです」

一方のクリニック側も、患者のそうした不安をくみ取り、薬を長期で処方するなど通院回数を減らす工夫をするところも増えたそうです。


コロナ禍によって、病気やけがをする人が大幅に減った

また、マーケットの縮小には、全体的に病気やけがをする人が減ったことも影響しているといいます。

「メディアでも報じられましたが、厚生労働省が2020年12月末に発表した人口動態統計(速報)によると、同年1~10月の日本の死亡者数は前年同月期より1万4千人も激減。肺炎を筆頭に減少が見られ、心疾患、脳血管疾患、インフルエンザと続きます。

新型コロナウイルスの感染予防により、肺炎やインフルエンザといったほかの感染症全般の死亡者数が減少したことが大きく影響していると考えられます」

自粛期間中に運動不足や食生活の乱れを見直したりするなど、生活習慣の改善に取り組む人が増えたことも影響しているのかもしれません。

さらに、交通事故による死亡者数も減少しました。警察庁の2021年1月のまとめによると、2020年の全国の交通事故による死亡者数は、前年比で12%減っており、交通事故発生件数自体も2割近く減少。交通事故による死亡者数が2000人台になったのは、統計が残っている1948年以降、初だといいます。

「新型コロナウイルスの感染拡大に伴う外出自粛で、交通量が減少したことが要因の一つと見られています。このように、感染予防や外出自粛によって、病気やけがをする人が大きく減ったことも、マーケットの縮小に影響していると考えます」 


9月以降、ウィズコロナの生活様式に順応し、徐々に医療業界は回復傾向に 

その一方で、「医療機関の回復は、意外に早かった」と辻・本郷 税理士法人の先生方は口をそろえて言います。

「世の中が次第にウィズコロナの生活様式に慣れてきたことが大きいです。患者はソーシャルディスタンスやマスクなどの感染防止対策を取りながら、通院を再開。

一方の医療機関も、感染予防を徹底しながら営業するようになったことで、2020年4月を底として、第2波が落ち着いてきた9月以降、売り上げは全体的に回復傾向にあります。逆に受診控えの反動もあり、10月は前年度比で増加した医療機関も少なくありません

2020年の10月は祝日がなく、平日の稼働日が多かったことも影響したのではないかと分析します。

とはいえ、「新患が増えない」「通院を控えていた人がなかなか戻ってこない」といった悩みを抱えるクリニックも少なくありません。また診療科目によっても差があり、最も経営に打撃を受けた小児科については患者の戻り具合が鈍いそうです。 


時代に合わせて変化できるクリニックが生き残っていける 

それでは、経営が回復傾向にあるクリニックとそうでないクリニックとでは、どのような違いがあるのでしょうか。うまくいっていない場合、2つの共通点があると辻・本郷 税理士法人の先生方は断言します。


1.時代の変化に対応できていない

「前述しましたように、新型コロナウイルスの感染拡大により、生活スタイルや取り巻く環境だけでなく、個人の意識や考え方も大きく変わりました。クリニック経営においては、常に時代に合わせた変化が求められますが、今回よりそれが加速し、表面化しました。従来のやり方をそのまま続けているところは苦戦している傾向があります」

例えば、オンライン診療やウェブの予約システムなど院内のIT化。新型コロナウイルス感染対策として患者のニーズは高いにもかかわらず、システムの導入に保守的なクリニックは、経営が回復しづらいといいます。


2.新型コロナに対して慎重になりすぎている

「わかりやすい経営判断の一例を紹介しましょう。病院の例になりますが、ある病院では以前は救急患者を受け入れることで新規の入院患者につなげてきました。しかし、コロナ禍で救急患者をすべて断ってしまったことで、病床の稼働率が低下。経営に大きな影響を与えてしまいました。

一方で臨機応変に、クラスターが起きないようPCR検査など感染対策を万全に講じながら救急患者を受け入れてきた病院は、それなりに売り上げを回復しています」

つまり、コロナ禍のピンチを変革の好機と捉え、時代のニーズや市場の変化に合わせようとする積極的な姿勢が求められているということでしょう。

次回の〈対策編〉では、コロナ禍で健常な経営状態を保っていくために、どのような対策があるのかをご紹介します。 


※ドクターズ・ファイル編集部による「新型コロナウイルス感染拡大による医療機関の受診意識への影響」についてのインターネット調査。調査対象は、全国主要都市に住む25~69歳の男女500人。2020年4月に調査実施。

 

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