いまや多くの人が病名やけがについてインターネットで調べる時代。そこには、世の中でどんな情報が求められているのかというニーズが隠れています。
そこで今回は、2020年度のユーザーの医療トレンドを探るべく、検索エンジン(Google)の自然(オーガニック)検索からドクターズ・ファイル「病気・けがを知る」コンテンツ(2021年6月現在、429件の解説記事を公開中)へ流入したセッション数を算出。2020年4月1日~2021年3月31日のトップ50を前編・後編に分けて発表します。この1年、どのような病気やけがが人々の関心を集めたのか、四半期ごとのトピックを抜粋して見ていきましょう。
※今回のランキングはGoogleサーチコンソールにて計測した「セッション数」に基づいて抽出しています。セッション数とは、ユーザーがサイトを訪問した回数を指し、ページ個々の閲覧数を示すページビュー数とは異なります。ユーザーニーズとセッション数が完全に一致するわけではありませんが、ユーザーの関心度を測る上でより適切な数値と位置づけ採用しています。
2020年4~6月
2020年度の医療トレンドは、新型コロナウイルス感染症を抜きにして語ることはできません。特に4~6月はその傾向を如実に示す結果となりました。自然検索からのセッション数のトップ50は以下の通りです。
新型コロナウイルス感染症の影響か、呼吸器関連の病気が上位に
2020年4月7日、新型コロナウイルス感染拡大による緊急事態宣言が7都府県に、そして4月16日には全国に適用されました。その状況下で、新型コロナウイルス関連の情報が上位に上がったのは当然の結果といえます。
トップ50のうち、第1位は咽喉頭異常感症でした。未知のウイルスに関する情報が錯綜した時期だっただけに、喉の違和感から、「もしかしたら新型コロナなのではないか」と不安を抱く人が多かったのではないでしょうか。咽喉頭異常感症の原因の一つがストレスであることを考えると、コロナ禍の自粛生活が精神面に影響したとも考えられます。
また、咽喉頭異常感症だけでなく、肺炎(14位)や気管支炎(16位)などの呼吸器疾患も上位にランクインしました。コロナ禍が本格的にスタートしたこのシーズン、呼吸器疾患が大きく注目を集めたのは自明の理といっていいでしょう。
秋冬にはランキング外の、「鉄欠乏性貧血」がじわり上昇
春から夏にかけて、汗ばむ季節になると鉄欠乏性貧血(27位)を気にする人が増え始めます。鉄欠乏性貧血は、秋冬にはランキングの枠外に落ちますが、4~6月は27位、7~9月は43位に上がってきており、汗ばむ季節ならではの傾向といえます。
例年であれば、夏の鉄欠乏性貧血の原因として、汗とともに鉄分が放出される、食欲が落ちて食事からの鉄分摂取が減る、などの原因が考えられます。それに加えて、2020年は5月25日に緊急事態宣言が解除され、新型コロナウイルス感染拡大の第1波が去ったのがこのシーズンでした。冬場の運動不足を気にして、自粛明けから一気に運動量を増やして鉄不足となった人も多かったのではないか、そんな見方もできるかもしれません。
気軽に受診しづらい泌尿器疾患は、年間を通して上位の傾向
コロナ禍で呼吸器疾患の自然検索からのセッション数が急増する一方で、季節を問わず常に上位に上がる病気も数多く見られます。例えば膀胱炎(9位)やカンジダ症(10位)、クラミジア感染症(38位)など、泌尿器科の病気です。
風邪のように誰でもよくかかる病気と異なり、泌尿器疾患は受診時の心理的ハードルが高い病気だといわれます。「ちょっと泌尿器科で診てもらってくる」と気軽に受診するような病気ではないからこそ、まずはネット上でよく調べ、熟考してから医療機関にかかる傾向があります。泌尿器疾患が季節に関係なく常に上位を推移しているのは、このような心理が働いているのではないでしょうか。
2020年7~9月
続いて、2020年7~9月のランキングを見てみましょう。4~6月に1位だった咽喉頭異常感症は2位と引き続き上位をキープし、依然として呼吸器疾患への関心が高いことが見て取れます。それと同時に、この夏ならではの傾向も読み取ることができます。
猛暑の影響で、「熱中症」のセッション数は冬の100倍もアップ!
2020年の夏は、観測史上これまで最も暑かった2016年と並ぶ暑い年となりました。総務省消防庁の統計によると、2020年6~9月に熱中症で救急搬送された人の数は全国で6万4869人、死亡者数は112人に上ります。このシーズン、熱中症(12位)のセッション数は、冬の100倍も増加したほど高い関心が寄せられました。
2020年の夏は、新型コロナウイルス感染症流行の第2波に該当するタイミングでした。発熱や倦怠感など、新型コロナウイルス感染症の症状が熱中症とよく似ていることも、人々の混乱を招いた一因だったのかもしれません。
また、「炎天下でマスクを着用すると熱中症リスクが上がる」「コロナ禍で熱中症まで増えると、いよいよ医療崩壊が起きる可能性がある」などの報道も加熱しました。新型コロナウイルスと熱中症はどう違うのだろうか、熱中症で倒れたときに受け入れ先の医療機関が見つからなかったらどうしよう――。そんな不安心理も手伝って、セッション数が増えたとも考えられます。
ちなみに、2020年は、熱中症による搬送者数、死者数ともに、前年や前々年に比べるとかなり減少していました。若年層は屋外でのスポーツやイベントで熱中症になりやすいといわれますが、外出自粛により、その数が大幅に減少したと推察されます。その一方、高齢者は屋内で熱中症を起こしやすいことから、外出自粛とは関係なく一定数の熱中症が起こり、2020年夏も情報を求める人が多かったのでしょう。
皮膚トラブルが増える夏は、「蕁麻疹」や「接触皮膚炎」などが急増
毎年、暑い季節になると発汗や日焼けなどによる皮膚トラブルが増え、当然ながら皮膚疾患が上位となる傾向があります。2020年7~9月も例に漏れず、蕁麻疹(19位)、接触皮膚炎(26位)などが見られます。
さらに、新しい生活様式が定着した2020年夏は、猛暑の中でマスク着用を強いられたため、「マスクかぶれ」「マスク荒れ」なる新しい言葉があちこちで聞かれるようになりました。例年以上に皮膚の状態に敏感になる人が多い夏となったようです。
8月、安倍首相が辞任したのを機に「潰瘍性大腸炎」が上位に
潰瘍性大腸炎(20位)が急上昇したことも、まさにこの夏ならではの特徴です。2020年8月は、安倍晋三氏が内閣総理大臣を辞任した時期にあたります。1回目に辞任したときと同じ、潰瘍性大腸炎が理由であったため、「政務に支障を来すほどの病気なんだ」「どんな病気なんだろう」と関心を寄せる人が多かったのではないでしょうか。
以上のように、2020年上半期はコロナ禍が大きく影を落とす結果となりました。これに続く10月以降はどのような病気・けがが注目を集めたのでしょうか? 「後編」では、2020年10月から2021年3月の状況について概観していきましょう。
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