〈後編〉2020年度の医療トレンドを振り返る!ドクターズ・ファイル「病気・けがを知る」ランキング

ユーザーニーズを探るため、検索エンジン(Google)の自然(オーガニック)検索からの、ドクターズ・ファイル「病気・けがを知る」コンテンツ(2021年6月現在、429件の解説記事を公開中)へ流入したセッション数を分析するこのコーナー。2020年度上半期についてまとめた「前編」に続いて、後編では2020年10~12月、および2021年1~3月の傾向をお伝えします。

※今回のランキングはGoogleサーチコンソールにて計測したセッション数に基づいて抽出しています。セッション数とは、ユーザーがサイトを訪問した回数を指し、ページ個々の閲覧数を示すページビュー数とは異なります。ユーザーニーズとセッション数が完全に一致するわけではありませんが、ユーザーの関心度を測る上でより適切な数値と位置づけ採用しています。


2020年10~12月 

2020年度の上半期は、日本はもとより、世界中が新型コロナウイルス感染症によって大きく翻弄されました。ドクターズ・ファイル「病気・けがを知る」への自然検索からのセッション数にもその影響が色濃く表れる結果となっています。秋以降、その状況はどう変化したのでしょうか。以下、トップ50を見てみましょう。 

新型コロナウイルス感染の第1波、第2波が過ぎ、「咽喉頭異常感症」はやや下降傾向に

2020年4~6月は1位、7~9月は2位と、半年にわたり上位を占めていた咽喉頭異常感症は、このシーズンは11位に後退しました。年明けには、さらに22位まで下がってしまいます。新型コロナウイルス感染拡大の第1波、第2波を経験するうちに落ち着きを取り戻し、情報ニーズがクールダウンしたのだろうと思われます。

この傾向は、「新型コロナウイルスは怖いウイルスだ!」とむやみやたらに恐れるのではなく、ウイルスや病気についてきちんと理解し、「正しく恐れる」ことが定着してきた証だといえるかもしれません。咽喉頭異常感症が新型コロナウイルス感染と関係するとは限らない、という認識が世の中に浸透してきたとも考えられます。


芸能人が病気を公表したのを機に、「群発頭痛」が急上昇

頭痛は「隠れた国民病」だと言われ、片頭痛や緊張型頭痛は年間を通して上位にランクインしています。事実、2020年10~12月には片頭痛が3位、緊張型頭痛が14位に入っています。

ただし、三大慢性頭痛とされる片頭痛、緊張型頭痛、群発頭痛のうち、群発頭痛だけは通年で上位には入り込まないのが特徴です。理由はシンプルで、患者数がそれほど多くないから。しかし、今シーズンは異例で、群発頭痛が26位に上がってきました。

この年の10月、サカナクションのボーカル、山口一郎さんが群発頭痛を長年患っていることを公開しました。その報道によって、群発頭痛への注目度が急上昇したと思われます。聞き慣れない病名だけに、ファンの人は群発頭痛についてネット上で検索したのでしょう。群発頭痛は、出産やくも膜下出血などに匹敵する激痛だといわれます。そんな話を小耳に挟むと、ファンではないけど、「そんなに痛い頭痛があるのか」と思わず調べてしまった、そんな人もいたのかもしれません。


秋の終わりから冬にかけて「胃腸炎」「急性胃腸炎」がピークに

胃腸炎と急性胃腸炎は、春はそれぞれ12位、20位でしたが、夏には11位、18位に浮上。10~12月になると8位、6位まで上がってきました。ただし、これはこの年に限ったことではありません。どちらも通年20位以内に入っていますが、冷え込む季節に増え始める傾向があります。秋の終わりから冬にかけてはノロウイルス、冬から春にはロタウイルスによる感染性胃腸炎が流行するため、特にこの時期に上位に食い込んできたのでしょう。

2020年はコロナ禍で手洗い励行が定着しました。この新しい生活様式をもってしても、胃腸炎の原因ウイルスを完全に抑え込むのはなかなか難しかったようです。 


2021年1~3月

2020年度、最後の四半期ランキングは以下のとおりです。新型コロナウイルス関連の病気については引き続き一段落したかのように見えますが、特筆すべきはワクチン関連の言葉が登場したことです。 

ワクチンへの不安からか、「アナフィラキシーショック」が一気に上昇

新型コロナウイルス感染症が拡大してから1年が過ぎたこの時期、ワクチンに関するニュースが日々聞かれるようになりました。人々の間では、ワクチンへの高い期待はもちろんのこと、副反応を不安視する声も多く聞かれました。その一つがアナフィラキシーショック(19位)です。

アレルギー性疾患を持つ人ならアナフィラキシーショックについて熟知しているかもしれませんが、そうではない人の中には、「アナフィラキシーって何?」と思う人もいたことでしょう。ワクチン接種がホットな話題となったこの時期、まさに自分のこととして、アナフィラキシーショックについて情報を求めた人が増えたのだと推察されます。


通年10位以内にランクインする「自律神経失調症」が2位に浮上

泌尿器疾患のように、気軽に受診しづらい病気は常にランキング上位に入る傾向がありますが(前編を参照)、捉えどころのない症状故に、多くの人が情報を得ようとして順位が上がる病気もあります。その一つが、自律神経失調症です。2020年度の中で見ると、自律神経失調症は、7位、6位、5位と微増し続け、2021年1~3月には2位まで上がってきました。

急な高熱で見当がつくインフルエンザのような病気と異なり、自律神経失調症では特徴的な症状が出ません。そのため、不安に駆られてネット上で調べるようになるのでしょう。特に、季節の変わり目で気温の変動が激しい時期にニーズが高まる傾向があり、この春先に2位まで急浮上したのだろうと思われます。


ドラマの影響で、「多発性筋炎」が14位に躍進

多発性筋炎は、今シーズン14位まで急上昇しました。ドラマ好きの人なら「なるほど」とぴんとくるかもしれません。2021年1~3月に放送されたドラマ、『にじいろカルテ』(テレビ朝日)で、女優の高畑充希さん演じる医師が患った病気として知られるようになったのが多発性筋炎でした。

多発性筋炎は指定難病の一つで、患者数は2万人程度と、さほど頻度が高い病気ではありません。それにもかかわらずランキング上位に入るわけですから、人気のドラマがユーザーの情報ニーズに与える影響はそれだけ大きいようです。


芸能人の活動休止報道により、「パニック症」が上位に

2020年度の7~9月に潰瘍性大腸炎が、そして10~12月に群発頭痛が上位に入ったことには、政治家や芸能人など、著名な人が病気を公表したためと推察されます。このランキングには、世の中の動きが反映されているわけです。

このシーズンにも同じような例が見られます。男性アイドルグループ、「King & Prince」の岩橋玄樹さんがパニック症(パニック障害)療養のために活動を休止していましたが、2021年3月にグループを脱退、同時に事務所を退所すると報道されました。まさにそのタイミングで、パニック症はランキング36位に上がってきました。2020年度の他シーズンではランキング外だったため、明らかにこの報道の影響だと思われます。100人に1人が経験するパニック症は決して珍しい病気ではないため、「もしかしたら私も……?」と心配して検索する人がいた可能性もあります。

このように、2020年度は何といっても新型コロナウイルスに関連する情報ニーズが圧倒的に高い1年となりました。その他にも、季節の移り変わりやマスコミ報道の影響により、意外な病気がランクインした傾向も見ることができます。

新型コロナウイルス感染症の拡大により新しい生活様式が浸透してきた2021年は、どのようなキーワードがトレンドになるでしょうか? ユーザーのニーズをキャッチする情報として、来年のまとめもどうぞご期待ください。

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