医療機関がインターネットを使った情報発信を進める上で、忘れてはならないのが医療広告ガイドライン。厚生労働省は医療機関ネットパトロールを強化しており、ガイドラインに反する不適切な医療広告には行政指導が入ることも。何より患者に不利益を与えることになりかねません。そこで本コラムでは、医療広告ガイドラインでおさえておきたいポイントを、全10回にわたって解説していきます。
第8回は専門医はスーパードクター?!保有資格の掲載ルールをお届けします。
広告可能な歯科医師の専門性資格はわずか5つ
患者にとって「どんな人に診てもらうか」はとても重要な要素です。ホームページのスタッフ紹介は必ずチェックするという声もよく聞かれます。医療機関においても、医師や歯科医師の経歴をアピールしたいというニーズはあるでしょう。
医療広告ガイドラインでは、医療従事者とそれ以外の従業員の氏名、年齢、性別、役職および略歴について広告することが認められています。「略歴」に該当するのは、生年月日、出身校、学位、免許取得日、勤務歴(診療科)などです。
そのほか、保有資格をプロフィールに記載することも多いと思います。各学会が認定している「専門医資格」がその代表ですね。しかし、専門性に関する認定資格(以下、「専門性資格」)については、広告可能な範囲がかなり限定的です。「これも書けないの?!」と驚かれるかもしれません。
つまり、厚生労働省の「広告しても良い」という条件を満たした専門性資格のみ広告できます。どの資格が広告できるかは、厚生労働省のホームページ内にある「医療に関する広告が可能となった医師等の専門性に関する資格名等について」で確認できます。
一覧を見てもらうとわかりますが、2021年6月現在、医師は56個、歯科医師は5個しか広告できる専門性資格がありません。そこに含まれない認定医、指導医は広告できないのです。また、各学会の会員であることも広告不可です。
学会や地域医師会の役員である旨は、現任であれば広告は可能です。ただし、団体のウェブサイトなどに活動内容や役員名簿が公開されていることが義務づけられています。また、役職を降りたときは速やかに広告上の記載内容を修正する必要があります。
なお、現在は広告が認められていない専門医資格も、厚生労働省に届出を行い、受理されたら広告が可能になります。ただし、届出が認められるためには、当該資格に関わる研修体制や試験制度などの基準を満たす必要があります。
資格名の記載ルールを誤るとガイドライン違反に
専門性資格を広告する際は、正式名称で書くというルールがあります。具体例を見てみましょう。
なお、非常勤の医師・歯科医師、スタッフの経歴を書くことも可能です。ただし、さも常勤であるかのように見せると誇大広告になるため、非常勤であること、いつ勤務しているのかを明記する必要があります。
「なんとなくスゴそう」を排除するのが医療広告ガイドライン
ここで、過去に行われた「専門医に関する意識調査」の調査報告をご紹介します。一般の1万5000人を対象に、「専門医」という名前にどのようなイメージを抱いているかを調べたものです。
実に80%近い人が、「専門医≒スーパードクター」と捉えているようです。もちろん各学会の専門医資格を取得するには、その分野における高い技術と豊富な知識が問われます。しかしここでいう「スーパードクター」とは、「神の手を持つドクター」、ブラック・ジャックのような非常にあいまいなイメージ。“専門医とは何か”を多くの人が正確に理解していないといえます。
専門医をはじめとする資格の能力や、その認定基準を一般の人々は理解していません。そのため、「よくわからないけどスゴそう」と思わせる側面があります。発信者が意図していなくても、優位性をアピールすることを徹底的に制限するのが、医療広告ガイドラインのスタンスでした。
「家庭医に憧れて」はOK、「家庭医です」はNG?!
学会認定の専門医のほかにも、専門性資格はたくさんあります。しかし、そのほとんどは広告が認められていません。また、広く使われている一般名であっても、専門性資格と誤認させるため注意が必要な名称も。以下は一例です。
広告が認められていない専門性資格の一例
■産業医(日本医師会が認定)
■日本専門医機構認定専門医
■検診マンモグラフィ独影認定医(日本乳がん検診精度管理中央機構が認定)
■日本糖尿病協会歯科医師登録医(日本糖尿病協会と日本歯科医師会が企画・登録)
■日本リウマチ財団登録医(日本リウマチ財団が登録)など
■スポーツドクター
「日本医師会認定スポーツ医」「日本整形外科学会認定スポーツ医」「日本体育協会公認スポーツドクター」をさすことになり、専門性資格と見なされます。
NG例:「私はスポーツドクターとしてプロ野球チームをサポートしています」
OK例:「子どもの頃にお世話になったスポーツドクターに憧れて、整形外科の道に進みました」
■家庭医
日本プライマリ・ケア連合学会認定の「家庭医療専門医」と誤認するおそれがあるため、記載する際は資格名と勘違いさせないような工夫をするとよいでしょう。
例:かかりつけ医
資格のすべてが広告不可ではない
いつものパターンですが、ここで紹介した「広告できない専門性資格」は、いずれも広告可能事項の限定解除要件を満たせば広告できるようになります。限定解除の詳細については、本コラム第3回を参照してください。
もう一点、「専門性に関する資格」とは別枠で、広告が可能とされているケースをご紹介します。
▼法令の規定に基づき一定の医療を担うものとして指定を受けた医師もしくは歯科医師
母体保護法指定医、身体障害者福祉法指定医、精神保健指定医、生活保護法指定医など
ここまで読んでいただき、専門性に関する資格は一部の団体の、一部の資格のみ広告可能だということがおわかりいただけたかと思います。医療広告では優位性をアピールすることは認められていません。一方で、患者が適切な医療を選択する上では重要な情報として、限定的に広告可能としているわけです。
なお、「産業医」や「日本専門医機構認定の専門医」は、掲載可能とすべきかどうかの議論が続いています。現在は広告が認められていない専門性資格についても、厚生労働省への届出が受理されるなどした場合、広告可能となる可能性があります(その逆も起こり得ます)。
つまり変動性の高い項目ですので、最新の情報については「医療に関する広告が可能となった医師等の専門性に関する資格名等について」をご確認ください。
次回は医薬品・医療機器の名称に関するルールを紹介します。
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