〈第10回〉その薬、本当に承認されている? 自由診療と未承認薬の違い《医療広告ガイドライン10のポイント》

医療機関がインターネットを使った情報発信を進める上で、忘れてはならないのが医療広告ガイドライン。厚生労働省は医療機関ネットパトロールを強化しており、ガイドラインに反する不適切な医療広告には行政指導が入ることも。何より患者に不利益を与えることになりかねません。そこで本コラムでは、医療広告ガイドラインでおさえておきたいポイントを、全10回にわたって解説していきます。

第10回は医療広告における「自由診療」と「未承認薬」の違いをお届けします。


保険適用と薬機法上の承認は区別して考えること 

「医療広告ガイドライン10のポイント」の最終回ということで、筆者が特に重要と考えている「自由診療」と「未承認薬」をテーマに選びました。これらの制度上の違いは理解されているかと思います。ここでは医療広告上の扱いについて解説していきます。

さっそくですが、次の文章は美容医療の広告によくある一文です。一度読んでみてください。 

自由診療であること、その費用についてしっかりと説明しており、一見問題はなさそうです。しかし、実は大きな問題があり、ガイドライン違反となっています。どこだかわかりますか?

2021年7月現在、プラセンタエキスを用いた治療は、「ラエンネック」(日本生物製剤)が慢性肝疾患における肝機能障害に、「メルスモン」(メルスモン製薬)が更年期障害、乳汁分泌不全に限定して薬事承認されています。一方、美肌や若返りなどの美容目的では未承認。そのため広告NGなのです。

医薬品の効能や医療機器の性能、それらを使った検査・治療の有効性などを広告することができないのは、以前に説明しました(第5回参照)。加えて、承認前の医薬品・医療機器は名称すら広告できないということです。薬事承認の範囲外で使用する、いわゆる「適応外使用」もこれに含まれます。

一般の人は「自由診療」と「未承認薬」を混同して理解していることが少なくありません。そうでなくても、「承認された」と書いてあれば、どことなく安心感を覚えるものです。そこにつけ込むように、あえて紛らわしい文章で患者を誘引している医療機関が存在しますが、誇大広告とみなされるため注意が必要です。


薬も機器も販売名ではなく一般名で表記すること

先ほど、筆者はプラセンタ製剤の説明に「ラエンネック」「メルスモン」と記載しました。販売名を記載することは、医療広告上はNGとなります。  

一般名での表記は可能です。しかし、例えばラエンネックの一般名が「胎盤加水分解物注射液」であるように、逆にイメージしづらいことも。その場合は、「プラセンタ注射薬」のような大きなくくりで表現すること自体は問題ないでしょう。もちろん、販売名が連想できる名称は認められません。

予防接種のワクチンも一般名で記載しなければなりません。連日、新型コロナウイルス関連のニュースが流れており、「ファイザー社のワクチン」「モデルナ社のワクチン」などと製薬会社名で表現されるのをよく耳にします。製薬会社名は広告可能事項に含まれていないことを考えると、言及しないほうが良いでしょう。

では、以下の広告文はどうでしょうか。 

〈1〉販売名を記載していること、〈2〉未承認である美容目的のボツリヌス療法について記載していること、この2点で規定違反となるため、広告できません。限定解除の要件を満たしている場合は広告可能ですが、次の事項も一緒に記載することが必須となるので注意しましょう。 

※「個人輸入において注意すべき医薬品等について」のページ

https://www.yakubutsu.mhlw.go.jp/individualimport/healthhazard/


誠実な情報発信者が評価される時代へ

医療広告ガイドラインのポイントを全10回にわたって解説しました。皆さんの病院・クリニックが発信する広告はガイドラインを遵守できていたでしょうか? ホームページ制作会社や広告代理店に任せている場合も、大丈夫だとは思わずに一度見直すことをお勧めします。

過去にあった事例では、医療広告ガイドライン改定時に何の見直しもせずにいたら、ビフォーアフターの症例写真に行政指導が入ったクリニックがありました。ホームページ制作会社と保守契約を結んでいなかったため、フォローの連絡がなく、問題ないものと思っていたそうです。

制作会社の中には、「ページ内容を変更すると検索結果に影響が出るため、指導を受けてから修正する」などと説明している会社もあるようです。個人的にはお勧めできません。不正な広告が発覚すると行政から呼び出しを受けることもあり、是正後の報告も含めてパワーがかかります。不正の程度によっては継続的に監視対象となる可能性や、刑事罰を受けることも否定できません。

検索結果に影響が出るかどうかについては、むしろ患者に不利益となる情報は今後淘汰されていくでしょう。GoogleはYMYL分野の代表となる医療情報について、検索結果の品質をさらに高めるべく検索アルゴリズムを頻繁にアップデートしています。 

とはいえ、100%問題のないホームページを自力で構築することは困難でしょう。医療専門の広告代理店やウェブ制作会社、コンサルタント、顧問弁護士に相談しながら、医療広告ガイドラインを遵守したホームページを運営していただきたいと思います。それが、皆さんの病院・クリニックが信頼できる医療機関であることの証となるはずです。


医療広告ガイドラインの理解度を確認してみましょう

最後に、まとめとして簡単なクイズを用意しました。理解度の確認としてぜひ挑戦してください。


Q.以下の広告文のうち、問題があるものは「×」、ない場合は「〇」をつけてください。〈1〉〈6〉〈7〉は内容が間違っていれば「×」、正しければ「○」としてください。ただし、すべて限定解除要件を満たしていないケースとします。

〈1〉医療広告ガイドラインを違反しても、即刻、罰則を受けるわけではない

〈2〉「開院1周年を記念して、先着10名様に無料ホワイトニングをプレゼントします」

〈3〉「当院の院長はインプラント治療の先駆者です」

〈4〉「当院は児童整形外科を標ぼうしています」

〈5〉自由診療にかかる費用の内訳は、事細かく記載しなければならない

〈6〉ビフォーアフターの写真を撮影し、治療後の写真が暗かったので明るくなるよう加工したが、広告上問題ない

〈7〉患者さんが自分のブログにAクリニックのクチコミを書いたが、Aクリニックには問題ない

〈8〉「私は地域の総合内科医として皆さんの健康を見守っています」

〈9〉「当院は日本外科学会認定研修施設です」

〈10〉「胃の動きを抑えるためブスコパンを使用します」



【正解と解説】

〈1〉:まずは任意調査として、説明や書類の提出を求められる

〈2〉×:費用を強調する記載やプレゼントの記載は、広告禁止事項に含まれる

〈3〉×:「先駆者」は「最も早く」という意味を持つ最上級表現。比較優良広告は認められない

〈4〉:「児童+整形外科」は組み合わせとして問題ない

〈5〉×:どんな項目に費用がかかるか、総額の目安、また註釈で医療費の総額が変動する条件を入れておけばOK

〈6〉×:加工したビフォーアフター写真は広告に使用できない

〈7〉:患者さんが自発的に書いたクチコミはOK。それを医療機関側が紹介すると規定違反

〈8〉×:日本内科学会認定「総合内科専門医」と誤認するため広告NG。「日本内科学会総合内科専門医」と記載する場合はOK

〈9〉×:学会の認定研修施設である旨は広告NG

〈10〉×:「ブスコパン」は販売名のため広告NG。「ブチルスコポラミン」であればOK 

患者ニーズ研究所 ONLINE|ドクターズ・ファイル

総合医療情報サイト『ドクターズ・ファイル』の編集部がより良い医院経営にお役立ていただけるよう、全国のドクター向けに医療コラムをお届けいたします。