〈前編〉スタッフのやる気を左右する!クリニックの「人事評価制度」調査レポート

仕事ぶりへの評価基準の曖昧さが、スタッフのやる気を喪失させる

クリニックの印象を大きく左右するのが、スタッフの存在。スタッフが生き生きと楽しそうに働く姿は、患者にとっても心地良く、安心感を得られます。患者のためにより質の高い医療を提供したいと考えた場合、スタッフ一人ひとりの成長がなければ難しく、院長一人の努力だけでは困難だと感じられているのではないでしょうか。

そのため、優秀なスタッフに長く働いてもらいたいと考えるのは当然のこと。ところが、医療の現場でスタッフからしばしば聞かれるのが、「同じ業務をしているのに、あの人ばかり昇給して不公平だ」「こんなに頑張っているのに、ボーナスが減った。誰も私の努力を認めてくれない」などといった不満の声。最悪の場合、離職につながるケースもあるようです。

そこで、注目されているのが「人事評価制度」です。この制度は、スキルや成果、働きぶりなど、企業・事業所ごとに異なる指標をもって従業員を適切に評価し、給与や役職などの処遇に反映する仕組み。一般的には、主に「評価制度」「等級制度」「報酬制度」の3点で構成されています。従業員は納得感のある評価を得ることで働きやすくなり、より意欲や向上心を持てるという効果があります。

一般企業ではポピュラーになりつつある人事評価制度。昨今では大きな病院でも導入しているところがありますが、医療機関全体で見ると、まだまだのようです。

そこで、ドクターズ・ファイル編集部では、医科・歯科のクリニックでの人事評価制度導入の実態について調査。本稿では、前後編に分けてその気になる中身をレポートします。


一般企業では約6割が人事評価を導入。クリニックでは約2割と低め

一般企業では何かしらの人事評価制度を取り入れている企業が増えており、中小企業庁の2022年版「中小企業白書 小規模企業白書」によると、全体の約58%が実施しているという結果に。

従業員規模別に見てみると、101人以上の規模では約87%、51~100人以下では約73%、21~50人以下では約57%と、規模が小さくなるにつれ導入率が下がる傾向にありますが、5~20人以下の規模の企業でも約35%が人事評価制度を実施しています。

それでは、クリニックではどうなのでしょうか?

まず医科と歯科を合わせた全体での導入率は、約23%という結果に。一般企業と比べると、クリニックの導入率は大幅に低いといえるでしょう。

従業員規模別のデータを見ると、10人以上従業員がいるクリニックの導入率が高い傾向にあることから、一般企業と同じく、導入率は事業所の規模に比例することがわかります。

なお、医科と歯科を比較すると、歯科のほうが9.3ポイントほど導入率が高く、関心の高さがうかがえます。

一般的な人事評価制度は規模の大きな組織向けのものが多く、少数精鋭のクリニックでは使いづらいのかもしれません。加えてクリニックならではの複雑な指標が反映しづらいことも、使い勝手が悪いという印象を生んでいる可能性があります。そうしたことが原因で、導入率の低さにつながっていると推察されます。


目的は単なる数値的な「査定」ではなく、スタッフのやりがいや働きやすさの向上促進

ここからは、「導入している」と答えたクリニックの回答を紹介していきます。まずは、導入目的から。

医科と歯科を合わせた全体では「スタッフのモチベーション向上」が導入目的として最も多く、特に医科では、81.8%と全体と比較しても多い結果となりました。単なる数値的な査定ではなく、適切な評価をすることでスタッフの意欲や能力を引き出し、働きやすさを醸成していることがわかります。

次点が「クリニックの成長」60.4%。スタッフ一人ひとりが適切な評価のもと、目標に向かって成長することで、最終的には自院の発展につなげたいと考えているクリニックが多いことがうかがえます。


ドクターとスタッフともに、評価にあたっては「業務スキル」を重視

評価者が人事評価をする上で頭を悩ませるのが、どういう点をどう評価するかといった「評価基準」ではないでしょうか。

一般的に人事評価では「公平性」「納得感」などが重要といわれ、それらをかなえる評価基準を設定することが、従業員のモチベーションにつながるとされています。ここからは、「医師・歯科医師」と「コメディカルスタッフ」それぞれの評価基準を探っていきます。

まず医科と歯科を合わせた全体で見ると、医師・歯科医師を対象にした評価基準は、「収益貢献度」41.7%、「成果」39.6%、「業務スキル」37.5%の3つが特に多く、4割前後のクリニックで基準とされていました。

特に歯科に絞った場合は、収益貢献度と成果がそれぞれ61.5%、業務スキル57.7%と上振れする結果に。歯科はより業績(成績)や能力の面での評価ポイントが高いことがうかがえます。

一方で、医科に絞った場合は収益貢献度18.2%、成果と業務スキルがそれぞれ13.6%と、歯科と比べて大幅に少ないという結果に。これは医科の場合、「医師を雇っていない」31.8%が最も多かったことから、そもそも医師の採用が少ないことに起因していると推察されます。

次に、コメディカルスタッフの評価基準を見ていきましょう。

「業務スキル」が93.8%と他の項目を大きく突き放す結果に。評価をする上では、患者への応対や処置などの業務スキルは欠かせないポイントといえるでしょう。

とはいえ、業務スキルは、評価者からすると収益貢献度や成果よりも「把握しにくい」ポイント。なぜなら結果だけではなく、日々の働きぶりのチェックなくして評価がしづらいという難しさがあるからです。

また、前の質問の医師・歯科医師と比べると、「継続勤務年数」が41.7%と高いことから、コメディカルスタッフ対しては、能力の成長は勤続年数に比例するという考えのもと、年功序列を重んじる傾向が見て取れます。


業務スキルは把握しづらいため、現場のチームリーダーが評価するケースも

前編最後の質問です。被評価者としては、判断基準となる指標とともに、誰にどのように評価されたかも、納得感を得る上では、重要なポイント。クリニックでは、誰がスタッフ一人ひとりを見て人事評価を行っているのでしょうか?

結果を見てみると、評価者は「院長」70.8%や「理事長」47.9%といったクリニックの代表者がほとんどでしたが、現場の「チームリーダー」が担うケースも約3割でした。

規模別で見てみると、チームリーダーが対応しているのは、11人以上の規模のクリニックに偏っていることがわかりました。前述したとおり、特にコメディカルスタッフの場合、見えにくい「業務スキル」を最も重要な評価基準に置くことが多いからこそ、現場を仕切るチームリーダーにも評価権限を与えて、適正な評価につなげているクリニックが多いのかもしれません。

後編でも、引き続き調査結果をレポート。評価結果をどのように現場に反映しているかや、クリニックならではの人事評価制度の難しさなどを深堀りするほか、制度を「導入していない」と答えたクリニックのホンネに迫ります。(ドクターズ・ファイル編集部)


※ドクターズ・ファイル編集部による「クリニックの人事評価制度に関するアンケート調査」。対象は、ドクターズ・ファイルを契約中の全国の医科・歯科クリニック。回答数は210院。2022年4月27日~5月6日にインターネット調査にて実施。 

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