〈後編〉患者もスタッフも笑顔になる!待合室で「物販」をうまく活用する方法

前編では、日々の診察に携わる傍ら、「待合室マーケティング®」という独自の理論を応用したセルフケアグッズの物販によって、院内の活性化を実現させている医療法人社団栄昂会の理事長、中原維浩氏を取材。患者の満足度やスタッフのモチベーションの向上など、待合室マーケティングを活用することで、さまざまなメリットが得られることを紹介しました。

この後編では、引き続き中原氏に、待合室マーケティングを実践する際のコツについて、自身が理事長を務める「戸塚駅前トリコ歯科」の物販ブースを例に、具体的な手法を解説してもらいます。

歯科に限らず、眼科や整形外科、小児科、内科、皮膚科など、医科の医院でも幅広い診療科で応用されている内容となっていますので、ぜひ参考にしてみてください。 


まずは、患者目線で導線や物販のディスプレイを見直し、現状を把握しよう

初めに、待合室マーケティングを実践する前に中原氏がお勧めするのが、待合室の見直しです。まずは、院内を改めて見直すことで、どのような商品があるのか、不足しているものはないか、クリニックのコンセプトに合った商品になっているかなど現状を把握することが重要とのこと。

そして、「表玄関から入る」→「待合室に座る」→「受付の前に立つ」というように、患者の動線を確認しておくことも大切だと言います。患者の目線に立つことで、自然と目が向くのはどのスペースなのか、どういう陳列の仕方だと伝わりやすいのかといった新たな発見があるからです。

戸塚駅前トリコ歯科では、クリニックに入るとまず大きな液晶ディスプレイが目に飛び込み、商品の説明をする動画が流れています(下部の写真上)。ほかにも、待合室にはロボットと連動したスライドショー動画の液晶ディスプレイ(下部の写真下)など、患者の興味を集めるための仕掛けがたくさんあります。

「当院では『AIDMA(アイドマ)の法則(※)』というマーケティング理論を応用しています。『AIDMA』の『A』は『attenntion(注意)』を意味しますが、消費行動を促すにはまず、来院した患者さんの注意を引き、興味を持ってもらうことが重要。その過程がないことには、『買いたい』『欲しい』という購買意欲にはなかなかつながりません。

興味を持った状態の患者さんに、診察や治療を通じて私たち歯科医師やスタッフが商品をお勧めすることで、その必要性を実感していただくことができるのです。そのため、POPや商品の置き方などディスプレイがとても大事になってきます」


商品のディスプレイが肝心! 患者の興味を引くためのコツとは

待合室マーケティングを活用して患者の興味を引くためには、ディスプレイの「7つの法則」があると言います。

これら7つは一般小売業などでも実践されているテクニックを中原氏が応用して編み出したもので、戸塚駅前トリコ歯科でも使われています。

ここからは、その中から編集部が特にドクターの参考になりそうだと思った、「法則① 売りたいグッズのフェイスを増やす」「② 売りたいグッズを『ゴールデンライン』に陳列する」「法則⑥ 集視ポイントをつくる」「法則⑦ 受付横に少額のグッズを置く」の4つを抜粋。写真とともに、一つ一つ見ていきましょう。


売りたいグッズの「フェイス」を増やす〈法則①〉

「フェイス」とはグッズを置く棚などの陳列面のこと。陳列面を大きくすることで商品の視認率が上がり、患者の手に取られやすくなるといいます

「人気の定番商品や力を入れている商品などは、フェイスを大きく設けるといいでしょう。例えば、当院では歯間ブラシが力を入れているお勧め商品なので、通常のクリニックでは多くて2列のところを、3列使って陳列しています。こうやって、見た目のゾーンを増やしておくことで、患者さんの目にふれやすくなります」 

ただし、フェイスが大きければ大きいほど商品は目立つものの、例えば5面以上使った場合、同じ商品ばかりになってその効果が薄くなるため、バランスには気をつけましょう。


売りたいグッズを「ゴールデンライン」に陳列する〈法則②〉

患者が陳列棚を前にした際に、意識しなくても商品が見やすく、選びやすく、取りやすいとされる高さを「ゴールデンライン」と呼びます。

「その高さは、商品を取る際、しゃがんだり手を伸ばしたりする必要がない、首から腹の上のあたり、85〜150cmとされ、一般的な小売店などでも売り上げを大きく左右する重要なポイントといわれています。そのため、人気商品や新商品など、最もアピールしたい商品はゴールデンラインに陳列することを、ぜひお勧めします

ただし、クリニックのコンセプトや患者層に合っていない商品を置くと、悪目立ちしてクリニック全体のイメージダウンにつながりかねないため注意が必要です。 


集視ポイントをつくる〈法則⑥〉

「フェイス」や「ゴールデンライン」を意識した商品の陳列に加え、患者の視線を集める工夫も大切です。ぱっと見てその商品の魅力がわかるような「集視ポイント」を設けると良いと中原氏は言います。

「お勧め商品や売れ筋商品を陳列する棚に、スタッフに協力してもらいながらPOPや販促物を配置しましょう。患者さんの視認率が高まり、手に取ってもらいやすくなります。そして、時計を見る習慣でもそうですが、人間の目線は上のほうに向きやすいといわれています。棚の上部にPOPや販促物を設置すると、より効果的でしょう。例えば、当院ではお勧めの商品を陳列した棚の上部に、イラストを使ったスライドショーが再生される液晶ディスプレイを置き、集視ポイントとしています」 


受付横に少額のグッズを置く〈法則⑦〉

いざ「フェイス」や「ゴールデンライン」を意識したディスプレイにしようと思っても、今ある陳列棚を急に変更するのは難しいという場合もあるでしょう。そんな時は、受付横のスペースから始めてみてもいいかもしれません。

「よくコンビニやスーパーなどのレジ近くで、手に取りやすいサイズの安価な菓子やホットスナックを販売していますよね。小売業で最も売り上げが期待できる場所が、このレジの周辺だといわれています。ついでに買おうという消費者心理になりやすいためです。当院でも、レジ横に30円程度のチョコレートを置き、販売しています。虫歯を防ぐ効果が期待できるキシリトールを使ったものなのですが、治療を頑張った自分へのご褒美という感覚でお求めになられる患者さんが多くいらっしゃいます」


抑えておきたい! クリニックで物販する際に気をつけるべき5つの注意点

ここまで、クリニックが待合室マーケティングを活用した物販を実践する際のコツを紹介しました。

一方で、中原氏がこれまで400以上のクリニックの物販を指導してきた中で、注意すべき点もあると言います。以下に中原氏の声をまとめましたので、併せてチェックしておきましょう。


セルフケアの大切さを伝えていくのも、かかりつけ医の役割

超高齢社会の日本。2050年問題の対策として、国が地域包括ケアシステムの構築を進める中、かかりつけ医の役割がとても重要になってきているのはご存じのとおりです。最後に中原氏はこう語りました。

「私はその役割の一つとして、かかりつけ医が患者さんに予防の大切さを伝え、セルフケアを指導していくことが大事だと思っています。物販というとお金もうけの印象が強いかもしれませんが、それだけが目的ではありません。セルフケアグッズの物販を通じて、かかりつけ医が治療を施すだけでなく予防を指導することで、患者さんの健康が守られる。そして、それにはちゃんとした知識が必要です。これからも、医科歯科問わず、クリニックの先生方に、その大切さを伝えていきたいですね」


※AIDMA(アイドマ)の法則…1920年代に米国のサミュエル・ローランド・ホール氏が提唱したマーケテイング理論で、消費行動をステップ化したマーケティングにおける基礎的な法則のこと。「A:Attention(注意)」「I:Interest(興味)」「D:Desire(欲求)」「M:Memory(記憶)」「A:Action(行動)」を意味する。

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