〈後編〉待合室でトラブル発生!どう対応するのが正解?トラブルシミュレーション10事例


「患者からクリニックへのクレーム」5事例への対応を考察!

前編では待合室での「患者同士のトラブル」について、どのように対応するのが適切かシミュレートしました。続く後編は「待合室での患者からクリニックへのクレーム」編。「患者がクリニックに対して感じた不満」から発生したクレームについて、その対応の仕方を考えていきます

待ち時間の解消を図るために導入した予約システムが思わぬクレームを生んだり、待ち時間のいらいらからスタッフの接遇に不満が生じたりと、クリニックに寄せられるクレームはその内容もさまざまです。後編も前編と同じく、そうした事例について適切な行動を3択形式でシミュレート。それに対し、医療機関のクレームやトラブル発生時の接遇対応に詳しい株式会社ウィ・キャン代表の濱川博招氏に、正解とともに、その理由を解説してもらいました。

前編でも記したとおり、「クレーム対応は初動が肝心。まずは患者さんの声にしっかりと耳を傾け謝罪することが大切」だと濱川氏は断言します。謝罪の後に取るべき行動について3択の中からどう動くのが正解なのかを考えながら、後編も読み進めてみてください。


〈事例1〉「予約したのに待たされるのはなぜ?」と患者からクレームが! どうする?

濱川:(1)の対応を選びがちだとは思いますが、これはNGです。この対応を取ると、同様の抗議をしてくる患者さんに対して常に優先的に診察をするということになってしまいます。待ち時間について理解を示してくれているほかの患者さんが不利益を被るような対応は、クリニックへの信頼を失いかねません。

(2)正論ではありますが、すでに患者さんが不満を抱えている以上、この理屈は通用しないと思います。そのため対応としては不正解です。

(3)が正解です。どんなに便利なIT機器を導入しても、安全な医療を提供するためには、完全に待ち時間をなくすことは困難です。そうした現状を丁寧に伝えた上で、その日の目安の診察時間をお伝えしてください。また事前の策として、予想以上に待ち時間が長くなりそうな日には、受付時にあらかじめ受付スタッフが「申し訳ありませんが、本日は急患の対応が入ったため、皆さん30分ほどお待ちいただいています」などと伝えておくだけで患者さんの心持ちは随分違うはずです。忙しいときはスタッフも大変ですが、患者さんにはお待たせする理由と目安の時間を伝えることで、こうしたクレームは確実に減ります。

その後もさらに時間が押すようなら、最初にお伝えした「30分」が過ぎる少し前に、受付スタッフや看護師が待合室に出て、「お待たせして誠に申し訳ございません。あと○○分ほどで順番となります」と伝えるようにしてください。患者さんを待たせてしまっていることをクリニック側もちゃんと把握しているという姿勢が見えれば、患者さんも安心します。そしてできることなら、実際に診察をする院長に「今日は待ち時間が全体的に長くなっている」と報告しておき、診察室に入ってきた患者さんに対して「お待たせしてすみませんでした」と一言告げてもらうようにすると、患者さんの不満も少なからず解消されるかと思います。


〈事例2〉スタッフの態度に不満を持つ患者からクレームが! どうする?

濱川:(1)や(2)も間違いではありません。むしろ①が可能なら、スピーディーに解決する策としては最善かもしれません。しかし多忙なドクターが外来診療を中断してまで謝罪に出てくるというのは現実的ではないですし、その間、他の患者さんをお待たせすることになってしまいます。

(2)は、急にクレームを受けて動揺しているスタッフをフォローするという意味では正しい対応ですし、例えばそのスタッフの上長にあたる者に代わるということであればかなり有効でしょう。クレーム対応においてはクリニックや病院に限らずどんなサービス業でも、役職の高い立場のある者からの説明や謝罪には重みが感じられ、顧客はより納得感を得る傾向にあります。ただ、やはり少人数のスタッフで運営しているクリニックではなかなか迅速にこうした対応は取りづらいもの。

というわけで、(3)が間違いのない対応となります。まずは対応したスタッフが、不快な思いをさせてしまったことを丁寧に詫びることが大事です。その上で、こうしたクレーム発生時には院長への報告を徹底させることをお勧めします。そして院長はその患者さんを診察する際に「先ほどはスタッフが失礼いたしました」と一言お詫びの言葉を伝えると良いでしょう。クリニックの責任者である院長からの言葉に患者さんは「不満をきちんと受け止めてくれた」と安心感を抱くはずです。


〈事例3〉予約したつもりができていなかった患者からクレームが! どうする?

濱川:(2)は患者さんとクリニックの間で「予約を入れた」「いや入っていない」の堂々巡りになるだけで、対応としてはNGだと思います。クリニック側には非がないことを強調するように「予約は入っていません」と言いきってしまうと、すべてこの患者さんが悪いと決めつけているような印象を与えかねず、当然患者さんの不満は解消されません。

(3)は正解といっても良いのですが、NGです。なぜなら、それが「あなたの予約の仕方が間違っているので」という前提で進むと、患者さんはさらに気分を害してしまうためです。あくまでも「当院のシステムがわかりづらく、ご不便をおかけしました。よろしければ、どのように予約を入れたか教えていただけますか?」というようなニュアンスで、一緒に画面を見ながら、患者さんがどこでつまずいたのかを知るような流れになればベストです。そして正しい入力方法などを教示し、希望があれば後日の予約を入れるなどの対応が取れると良いでしょう。

(1)がこの場合では正解だといえます。たとえ誤って予約が入っていなかったとしても、わざわざクリニックまで足を運んだ患者さんを「今日は診られません」と帰すのではなく、極力診るという姿勢は見せるべきです。もちろんすぐにというわけにはいかないので、「30分〜1時間ほどお待ちいただくことになりますが」などの前提は伝えてください。それで「待てない」ということになれば、③の対応で患者さんに寄り添いましょう。


〈事例4〉呼び出しの声に気づかず待ち続けていた患者からクレームが! どうする?

濱川:(2)と(3)はNGですね。

②はあまりにもしゃくし定規。患者さんは「名前を呼ばれなかった」と不満を感じているわけですから、それに対してクリニック側のルールを提示したところで、納得はしてもらえないでしょう。

(3)も、「この患者さんが来院したときだけ」の特別対応となってしまうような解決方法であり、推奨しません。受付スタッフの仕事が煩雑になってしまいますし、万一、別のスタッフにそれがきちんと伝わっていなかった場合には、次回、患者さんの不満はさらに増してしまいます。

この場合は(1)が正解。まずは声が届かなかったことを詫び、できるだけ早く診療が受けられるように調整してください。昨今では個人情報保護の観点から、大きな声で何度もフルネームで呼ばれることを嫌がる患者さんもいるため、診察の順番が来たときに患者さんを番号で呼ぶクリニックもあります。一方で、患者さんの取り違えがあってはいけないので呼び出し時に名前を呼んで確認するというポリシーを大切にしているクリニックもありますし、高齢の患者さんなどからは、番号よりも名前のほうが気づきやすい上に親しみを持ちやすいという意見も聞かれます。

いずれにせよ、すべての患者さんが自分の順番が来たことに素早く気づける工夫は大切です。例えば、運用に無理のない範囲で、あらかじめ受付で希望する呼び方を選択してもらっておくのも良いでしょう。「名前を呼ばれたくない」という患者さんには番号で、「名前のほうがわかりやすい」という患者さんには名前で呼ぶことができるよう初診時に希望を聞いておくのも一つの方法です。その上で、どうしても「呼び出しの声が聞こえづらい」という患者さんには、呼び出し後に診察室に向かったかどうかを確認する、あるいは個別に声がけするなどの配慮は必要かもしれません。


〈事例5〉いるはずの医師がまさかの休診。知らずに来院した患者からクレームが! どうする?

濱川:(1)はNGです。患者さんがスピーディーな診察を求めているなら代理の医師の対応でも問題ないですが、特定の医師に診てもらいたいという強い希望がある場合には、クリニック側の都合を押しつけていると捉えられてしまいます。

(2)も良い対応とはいえません。こうしたお願いをすれば、当然この事例のようなトラブルは防げるわけですが、それを患者さんに強いるような提案をクリニック側がすることは避けるべきです。もちろん患者さん自身が「次回からは確認の電話を入れます」と言うのなら、それは受け入れてください。

(3)が正解です。しかし、患者さんにまた別の日に足を運んでもらわなくてはならないため、「ご希望の医師ではありませんが、本日の外来担当も実績のある医師です。いかがいたしましょうか」と別の選択肢も提案するのが良いのではないでしょうか。その提案を患者さんが受け入れてくれた場合には「診察後もご希望の医師に戻してほしいという場合には、本日の診療内容を引き継いでおきますのでご安心ください」と、一言添えることも大切ですね。もちろんその日、代わりに診ることになった場合は、その医師にも診察前に事情を伝えておき、「私がしっかり診ますので安心してください」と伝えてもらうなど、患者さんの不満と不安に寄り添うような態度を示すことが大切です。


【後編まとめ】その場しのぎのクレーム処理ではなく、患者の声をクリニック改善のきっかけにする

前後編に分けて、待合室での適切なクレーム対応を3択形式で解説してきましたが、いかがでしたでしょうか。

濱川氏は「クレーム自体は必要以上に恐れることはありません。クレームは『改善してほしい』という期待の証しであり、むしろ表面に出てこない『サイレントクレーム』のほうがクリニックにとってはマイナスです」と指摘します。なぜなら、医師やスタッフに不満を伝えたくても伝えられなかった患者は、「改善してほしい」という期待を寄せなくなるため、次第にクリニックに足を運ばなくなります。そこで解消できなかった不満はクリニックに伝える代わりに友人・知人に広まる可能性があり、そうした「サイレントクレーム」はクリニックの信頼を下げる危険性を孕むものだからです。濱川氏はこう続けます。

「患者さんから寄せられた声はクリニックの環境やスタッフの接遇を改善していく大きなチャンスであり、むしろ貴重な気づきとなる可能性を秘めているもの。できればクレームは受けたくないと考えるのは当然のことですが、もしも患者さんに不満をぶつけられたとしても、初動の対応を間違わなければさほど大きなトラブルに発展することはありません」

いわく、「とにかく患者さんの声を聴くことが第一」だとか。その際に重要なのは、自分たちが原因で不満を生じさせたかもしれないという相手への理解と共感を持って接すること。それで多くのトラブルは回避できると言います。

「クリニックと患者さん、どちらが正しいかという議論をするのではなく、患者さんの不満の要因を探ることが大切であり、それこそがクレームを改善のきっかけにするチャンスです。クレーム発生→患者さんの不満を受け止める適切な対応→クリニック全体で事例共有→同様のクレームが起こらないよう根本的な改善を図るーーというサイクルが確立されていけば、より安心して通える場所として、患者さんから厚い信頼を得るクリニックへと進化し続けていけるのではないでしょうか」 

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