待合室での「患者同士のトラブル」5事例。その対応を考察!
コロナ禍で、予約システムや自動精算機を導入し、患者の待ち時間の解消に努めるクリニックが増えています。それでも待ち時間を完全になくすのは難しく、その時間が長くなるほどに患者のいらいらは募り、それがスタッフへのクレームや患者同士のトラブルに発展することも。特にコロナ禍の昨今では一層センシティブになりがちです。
そこで今回は前後編に分けて、待合室で起こりがちなトラブルについて「どんな対応が適切か」を、医療機関のクレームやトラブル発生時の接遇対応に詳しい株式会社ウィ・キャン代表の濱川博招氏に解説してもらいました。濱川氏は「どんなトラブルでも、まず患者さんの声にしっかりと耳を傾け、不便をかけたこと、不安な思いをさせてしまったことに対して謝罪をすることが大事」だと言います。今回の記事では、謝罪の後に取るべき行動について3択形式でシミュレートします。
前編は「待合室での患者同士のトラブル」編。各事例について、どう動くのが正解なのかを考えながら読み進めてみてください。
〈事例1〉ソファーを独り占めする患者に別の患者からクレームが! どうする?
濱川:(1)は他の患者さんの不満も高まるためNGです。その場をやり過ごせたとしても、他にも座れずに不満を抱えている患者さんがいたかもしれません。すると、このクリニックは患者さんのことを守ってくれないのだという印象を与えることになります。患者さんに我慢を強いるようなクリニック運営をしていると、何か起こったときにさらに大きなクレームに発展する可能性が高くなります。
(2)は可能であれば正解なのですが、待合室はスペースに余裕のあるところばかりではありません。狭いスペースにさらに椅子を持ち出すことで他の患者さんのストレスを高めることにも。それであれば、椅子の下に荷物置きを設置しておいたり、大きな荷物は受付で預かったりするなどの対応をあらかじめしておくほうが良いと思います。
(3)が正解。もちろん当該患者を責めるような口調はNGです。もしかしたら体調がすぐれず座り込んでいる場合もあります。その場合は別室に案内するなど個別に対応をしてください。
〈事例2〉子ども同士のトラブルに被害者の親からクレームが! どうする?
濱川: (2)はNG。クリニックとして患者さんを守る立場にありながら責任を放棄するような姿勢は、その様子を見ている他の患者さんにも不信感を抱かせるだけです。
(3)も基本的にはNGです。わざとけがをさせたわけではないかもしれず、それをクリニック側が裁くことはできません。再度同様のトラブルが起きた場合にはキッズスペースの利用をご遠慮いただくなど、様子を見ながら対応するのが良いかと思います。あまりにも繰り返されるようなら「この次も同じようなことが繰り返されるようならキッズスペースへの立ち入りを遠慮していただきます」ということを口頭で告知しておくのも手かもしれません。
(1)が正解です。クリニックとしてこの処置をしないと、二次クレーム、三次クレームへと発展する可能性が高くなります。「けがをしているのに何もしてくれない!」と被疑者側の親御さんが大声で騒ぎ出すような状況になれば、さらに対応に時間がかかってしまい、通常の診察も滞ってしまうでしょう。この場合の治療費は、いったんはクリニックが負担します。まずは損害を受けている患者さんに対して、クリニックが誠意を持って対応しているという姿勢を見せることが大切。そして、その場が落ち着いてから、加害者側の親御さんに返金してもらうよう、話を進めるのが良いと思われます。
〈事例3〉顎マスクの患者に隣で咳き込まれた患者からクレームが! どうする?
濱川:(1)はNG。この場合、隣の患者さんから感染したと特定することは不可能ですし、その様子をカメラで記録しているわけでもないので、顎マスクの患者さんに責任を負わせることはできません。
(2)も〈事例1〉〈事例2〉と同様の理由でNGです。
(3)が正解。クリニックの待合室で感染したかどうかはさておき、患者さんの不安に寄り添う姿勢は大切です。もちろんその場合の治療費は通常どおり、その患者さんに請求してください。因果関係がはっきりしないクレームに対しクリニックが特別な対応を取ると、今後すべての患者さんにそうしなければならなくなります。あくまで患者さんは皆平等に扱うということを前提に対応してください。
そして近頃ではマスクをしないという方もいらっしゃいますから、こうしたトラブルを未然に防ぐために、待合室にはポスターなどで「マスクを着用していない方、正しく着用されない方は、待合室以外のスペースでお待ちいただきます」というような告知をしておくのが良いと思います。
〈事例4〉待合室での新型コロナウイルスへの感染を心配する患者からクレームが! どうする?
濱川:(1)は、それが可能ならばしても良いとは思いますが、これも〈事例3〉と同じで感染経路が特定できているわけではないので、NGとします。もしクリニックで検査をするにしても費用は受診する患者さん負担ということを原則にするべきです。
(3)はNG。クレームを入れてきた患者さんが、実際にはクリニックで感染したのではなく帰りに立ち寄った場所や、移動のバス・電車などで感染した可能性もあるため、そのジャッジをクリニック側ですることはできません。
(2)が正解。「優先的にPCR検査を」ということではなく、あくまで発熱した患者さんに対して、そのクリニックで取っている通常どおりの対応をするということです。その上で検査が必要であればするという流れで良いと思います。
〈事例5〉素手で触った紙コップを元に戻す子どもに患者からクレームが! どうする?
濱川: (2)は絶対に駄目です。厳しく注意すべきことではないですし、そのお子さんと親御さんがクリニックに来づらくなるような対応はNGです。
(1)はある意味では正解だといえます。細かいところが気になる方は、些細なことにも不安を感じ、それがクレームのきっかけとなることもあります。ここまでの対応をすれば、その方の不安も解消されるとは思います。しかし今後もまた同様のクレームが入った場合、その都度すべての紙コップを廃棄するなどの極端な対応をしていくのは、クリニックとしても不要なコストを負うことになりかねません。
(3)が正解。クリニック側が、クレームを入れてきた方に「しっかり対応している」という姿勢を見せることが大切です。「後でやっておきます」という対応では、その方の不安は解消されません。アルコール消毒自体は短時間で済みますし、ご本人の目の前でそれを見せることで納得してもらいやすくなります。
【前編まとめ】どの患者の言葉も否定せず、まずは不満や不安に耳を傾け、寄り添う姿勢が大切
患者同士でトラブルが発生した場合、トラブルを穏やかに収束させるためには、クリニック側はクレームを入れた患者の言葉を否定せず、まずは不満を受け止めることが大事です。
そしてその対応をクリニック側が考える上では、「『すべての患者は平等』という前提を忘れないことが重要」と濱川氏は語ってくれました。つまり、クレームを入れてきた患者の言葉に耳を傾けるのはまず何より重要なことですが、その言い分のみを受け入れて、もう一方の患者を不当に悪者扱いしたり、糾弾したりするようなことがあってはいけないということです。
そして、クレームに対してクリニック側がしっかり対応しているという姿勢を患者に見せることも大切なポイントだと濱川氏は続けます。
「当然ながら、『患者さん同士のことだから』とクリニックが不介入の姿勢を貫くのは得策ではありません。院長は自身の管理下にあるクリニックで起きたことに対しての責任が発生します。必ず患者さんの不満や不安の声には耳を傾けてください」
さらには、そのクレームをきっかけにクリニックとして快適な環境を整えたり、不必要なトラブルを未然に防ぐための工夫やスタッフ教育、また必要に応じて研修を行ったりすることは、「患者さんが抱く安心感の向上はもとより、スタッフの業務負担軽減にもつながる」と、そのメリットを説明します。クレームは対応さえ間違わなければクリニックをより良くするヒントにもなるといえるでしょう。
後編では「患者からクリニックに対してのクレーム事例」についてシミュレートします。
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