薬機法改正と医療広告ガイドライン改定でどう変わった?これだけは押さえておきたい!〈2021年版医療広告事情〉

今年も残すところあとわずか。皆さんにとってどんな1年でしたか? コロナ禍による「受診控え」が注目された昨年に比べると、患者が戻ってきたという声も耳にしますが、それは誰もが安心して受診するための医療機関の努力があってのこと。患者のニーズに応えられるクリニックをめざし、休む暇もなかったという人も多いかもしれません。

そこで今回は、そんな忙しい先生方に向けて1年を振り返り、医療関連の法改正でどんな動きがあったのかを見ていきます。編集部が注目したトピックスは2つ。薬機法(正式名称は、医薬品、医療機器等の品質、有効性及び安全性の確保等に関する法律)の改正と医療広告ガイドラインの一部改定です。これらの内容とともに、変更によって開業医にどんな影響があるのか――医療法務を専門とし、薬機法上の広告規制や医療広告ガイドラインにも精通する弁護士法人丸の内ソレイユ法律事務所の宮西英輔弁護士にお話を伺いました。

薬機法改正による開業医への気になる影響は……?

まずは、2021年8月1日に施行された改正薬機法について。薬機法は、医薬品や医療機器などの製造から販売、市販後の安全対策まで一貫した規制を行うことで、その適正化をめざした法律です。今回の改正では、主に以下のような変更がなされました。 

これらは開業医にどう関係してくるのでしょうか? そこでずばり、宮西氏に尋ねたところ、返ってきたのは「開業医への影響はあまりないはずです」という回答でした。その理由についてこう続けます。

「薬機法は医薬品などの製造や販売に関する法律ですから、それらを行わない医療機関は特に気にする必要がありません。影響があるのは、薬局のほか、主に医薬品や化粧品を製造・販売するメーカーでしょう」

とはいえ、先生がMS(メディカルサービス)法人等の別法人を設立の上、医薬品や化粧品の物販を行うことが増えているため、そのような事業を行っている先生方には改正薬機法の課徴金制度が関係してくるといいます。

そもそも医療法上、医療機関は医業に関連する範囲内の行為しか行えないため、宮西氏いわく「医療機関はインターネットによる不特定多数の人に向けた物販ができません」とのこと。最近は、化粧品を患者に提供する皮膚科なども増えていますが、こうしたケースでは患者の療養の向上を目的に、院内において限定的に販売または処方するという形をとっているそうです。そのため、「もし開業医の方が医薬品や化粧品を不特定多数人に販売をしたい場合は、MS法人等を別に設立した上で、そちらで製造販売許可を取り、その法人で販売する」という形にするのが望ましいのだとか。

「MS法人等の別法人であれば販売しても問題ありませんが、その場合は薬機法がその別法人に適用され、課徴金制度の対象となりますから、広告を行う際は注意が必要です」


課徴金制度とは? 化粧品などの物販を行うMS法人は気をつけよう

では、課徴金制度とはどんなものなのか見ていきましょう。そもそも「課徴金」とは法律などに違反した場合に事業者が得た利益を国が徴収するもので、改正薬機法では、第66条「虚偽・誇大広告の禁止」に対する違反が対象となります。実はこれまで虚偽・誇大広告違反の罰則としては、2年以下の懲役もしくは200万円以下の罰金が科されていました。

しかし、これが広告違反の抑止力になっていたかというと、決してそうとはいえなかったようです。「利益追求を第一とする悪質な事業者が増える中で、課徴金制度の導入によって広告違反の抑止効果を高める狙いがあると思われます」と宮西氏は、導入された背景を指摘します。概要を以下にまとめました。 

違反すると売上額に応じて徴収されるため、実質、上限金額はないといえます。また、「売上額の4.5%」という数字にも注目したいところ。課徴金制度は景品表示法(景表法)にも導入されていますが、こちらは「売上額の3%」とされ、徴収金額は薬機法のほうがより多いことがわかります。そして、この数字が掛けられるのは各種控除がなされる前の「売上額」なのです。このことから、課徴金によって事業者が被る損害は多額になる可能性があります。

「サプリメントなどを取り扱う景表法に対し、薬機法は医薬品などを対象とするため、消費者の健康に及ぼす影響が大きく、より重いペナルティーが科せられたと考えられますね」と宮西氏。

また、今回の改定で新たに違反広告に対する行政措置として、措置命令の制度も導入されており、事業者にとっては課徴金よりもダメージが大きい可能性もありそうです。

「措置命令では事業者名がインターネットなどで公開されますので、社会的な信用を失うことになりかねません。今後の販売が難しくなることなどを考えると、課徴金以上に重い罰則といえるかもしれません」


効果・効能、虚偽・誇大……広告表現には細心の注意を!

課徴金の支払いや措置命令を受けないようにするために、医療広告を行う上でどんな点に気をつければいいのか、宮西氏にポイントを尋ねました。

(※)化粧品の効能の範囲

ポイント②③に関しては、違反すると第68条「未承認医薬品の広告の禁止」に該当する可能性があり、2年以下の懲役もしくは200万円以下の罰金に加え、措置命令の対象となります。というのも、健康食品やサプリメントは、もし薬効をうたうと、未承認医薬品とみなされ薬機法に抵触してしまうからです。また、化粧品も広告に記載できる表現が決められているため、そこから外れた場合は同様です。そして、そのどちらも広告内容が虚偽・誇大なものであれば、課徴金の対象にもなる可能性があるのです。

「コロナ禍で医療機関本体の経営状態が悪化し、MS法人等を通じた物販を行う開業医が増えています。特に多いのは化粧品ですが、広告にあたっては虚偽・誇大表現はもちろん、効果・効能をうたっていないか、慎重な対応が求められます」と宮西氏は注意喚起します。


医療広告ガイドラインの改定で何が変わった?

続いて注目したいのが、2021年4月1日に施行された医療広告ガイドラインの一部改定について。主な変更点は、広告可能な事項に「特定行為を手順書により行う看護師が実施している当該特定行為に係る業務の内容」が追加されたことです。

特定行為とは、看護師が手順書により行う高度な専門知識や技術を必要とする診療補助のことで、現在指定されている特定行為は21区分38行為に上ります。特定行為を実施するには研修を受ける必要があり、修了すると看護師は医師の判断を待たずに手順書により行えるようになります。そもそもこの研修制度は、看護師の役割拡大を通じ、チーム医療や医師の働き方改革を推進することを目的に生まれたもの。今回の改定では、それをさらに推し進めるべく、特定行為研修を受けた看護師の業務内容を広告上記載できるようになりました。

これによって開業医にどんな影響があるのか、宮西氏に尋ねると「特定行為の多くは在宅医療の現場でニーズが高いものです。そのため、在宅医療に力を入れる医療機関にとっては、広告上アピールできる点が増えたといえるでしょう」とのこと。

確かに、医師が不在の場合でも看護師が手順書をもとに適切な処置ができることは、クリニックにとって強みになりそうです。

ただし注意したいのは、あくまで「業務の内容に関する広告」だということ。ガイドラインにも「専門性資格に関する広告ではない」とあり、広告可能な専門看護師資格などとは異なります。そのため、質の高い医療をより効率的に患者に提供するにあたって、特定行為の内容やその知識と技術が現場でどう生かされているかについても記載する必要があるといえるでしょう。こうした情報をきちんと伝えることで、医療機関にとってはもちろん、患者にとっても自身に合った医療機関を選ぶ上でプラスになるのではないでしょうか。


【まとめ】

いかがでしたか? 今回取り上げた2つのトピックスは、開業医にとって大きな影響はないものの、MS法人等を運営している先生や、特定行為研修を受けたスタッフがいるクリニックにとっては、役立つ情報だったのではないでしょうか。

医療技術が日進月歩であるのと同様に、医療関連の法律なども適宜更新されていきます。今回は取り上げませんでしたが、先日も日本専門医機構が認定する専門医の広告が可能になったという通知が出されました。引き続きこうした変化に目を向けながら、患者に適切な医療を提供すべく正しい情報の収集に努めていきましょう。(ドクターズ・ファイル編集部) 

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